「インシデントを起こして立ち直れません」
「インシデントから立ち直るにはどうしたらいいの?」
など悩んでいる看護師のために、立ち直る方法を解説します。
私も過去に重大なインシデントを起こして、かなり落ち込みました。
インシデントのあとに大切なのは1人で抱え込まずに話すことと、再発防止策を1つ決めて実行することです。
この記事では、看護師がインシデントで立ち直れないときの立ち直り方を、医療安全として報告を受ける側の本音も交えて解説します。
看護師がインシデントで落ち込むのは、責任感が強いから

看護師がインシデントで落ち込むのは、それだけ患者さんのことを真剣に考え、責任感が強いからです。
医療安全の分野でも、ミスに関わった医療者自身も深く傷つくことが知られていて、そうした医療者は「セカンドビクティム(第二の被害者)」と呼ばれています。
参考:Wu AW. Medical error: the second victim. BMJ. 2000
私も看護師6年目の夜勤で、術後の患者さんの足に起きた異変に朝まで気づけず、カテーテル治療まで行うこととなり、「看護師としてもうダメだ」と自分を責め、1週間以上落ち込みました。
そこまで落ち込んだのは、当時、集中治療室で常に気を張り詰め、責任を持って仕事をしていたからです。
看護師歴10年以上の今でも、インシデントを起こせばへこみます。
ですが、落ち込んでいる自分をさらに責める必要はありません。
医療安全の担当者がインシデントの報告で見ている3つのこと

- 個人を責めず、次にどう防ぐかを考える
- 個人ではなく、仕組みに問題がないかを確認する
- 報告してくれたスタッフを守る
上記の3つが、医療安全の担当者である私がインシデント報告を受けるときに見ていることです。
見ているのは「誰が悪いか」ではなく、「どうすれば次に防げるか」です。
個人を責めず、次にどう防ぐかを考えている
医療安全の担当者は、インシデントを起こした個人を責めず、次にどう防ぐかを一緒に考えます。
正直に書くと、同じ人から続けて報告が上がると「またこの人か」と思うことはあります。
ただ口には出しませんし、「ああ、またやっちゃったんだな」くらいの気持ちです。
若い看護師が、原因と次の対策まで自分で考えるのは難しいことがあります。
話を聞いたうえで、次にどうするかを一緒に考えるのが医療安全の担当者の仕事です。
個人ではなく、仕組みに問題がないかを確認している
医療安全の担当者は、原因を個人の不注意と考えず、マニュアルや仕組みに問題がないかを確認します。
報告を受けるときも、「なんでこうしたの?」という責める聞き方はせず、「マニュアルではどうなっていますか?」と確認して、本人が自分で気づけるように問いかけます。
続けて報告が上がるときは、マニュアルを知らないまま自己流になっていることがあり、それは本人だけでなく、教える側の課題でもあります。
| 起きたこと | 私の対応 |
|---|---|
| マニュアルと違うやり方をしていた | マニュアルの手順を一緒に確認して、次からのやり方を決める |
| マニュアルどおりにやっていても起きた | 本人の手順に問題がなかったことを伝えたうえで、「防ぐとしたら、どんな対策ができそう?」と一緒に考える |
| 病院や部署の基準があいまいで起きた | 本人の責任ではないことを伝え、基準やマニュアルそのものを見直す |
上の表のとおり、どの場合も本人を責めて終わることはありません。
例えば私は以前、全身麻酔の手術から戻ってくる患者さんの人工呼吸器を準備したとき、酸素の配管だけつないで、空気の配管をつなぎ忘れたことがあります。
酸素を空気で薄められなかったため、吸入酸素濃度100%の状態が数分続きました。
幸い患者さんに影響はありませんでしたが、医師からは強く怒られ、自分をひどく責めました。
振り返ると、忙しい中で、慣れない準備を1人でしていたこと自体に問題がありました。
リーダーなど誰かと一緒に準備を確認する仕組みがあれば、防げたでしょう。
厚生労働省の資料にも、医療過誤は管理体制の問題が重なって起きることが多く、1人の看護師の責任にできない場合もあると書かれています。
参考:厚生労働省「保健師助産師看護師に対する行政処分の考え方」
あなたのインシデントも、あなた1人のせいとは限りません。
報告してくれたスタッフは守りたいと考えている
医療安全の担当者は、早く正直に報告してくれたスタッフを守りたいと考えています。
報告しにくい気持ちはよくわかりますが、医療安全の担当者としては、報告は早めにほしいです。
逆に、報告しない、インシデントレポートを出さないという対応は信頼をなくします。
すぐに報告してくれる人、正直に話してくれる人、そのあと対策を実行しているのがわかる人は信頼できます。
そういうスタッフのことは「守らなきゃ」と思います。
あなたがすでに報告を済ませているなら、いちばん大事なことはもうできています。
看護師がインシデントから立ち直るためにやること5つ

- 信頼できる人に話す
- 次の出勤で、自分から上司に報告する
- 再発防止策を1つだけ決める
- 休みの日は人と会う・没頭できることをする
- つらさが続くときは専門家に相談する
上記の5つが、インシデントから立ち直るために私がすすめたいことです。
どれも明日から始められることなので、できそうなものから試してみてください。
①信頼できる人に話す
看護師がインシデントで落ち込んだときは、まず信頼できる人に話すことが大切です。
私の場合は仲の良い先輩で、失敗談をジョークを交えながら笑い飛ばしてくれたことで、少しずつ立ち直れました。
話す相手は、同期や、友人など職場以外の人でも構いません。
話すと、頭の中でぐるぐるしていた考えが少し整理されて、「自分だけじゃない」と思えることもあるでしょう。
職場の人間関係や雰囲気は、自分1人の力では変えられないこともあります。
私も若いころ、高圧的な医師がとても苦手で、「ミスをして怒られる→ビクビクする→またミスをする→また怒られる」というループに何度も入りました。
正直に書くと、私はこのループから上手に抜けられたわけではなく、耐えながら働いていました。
1人で耐え続ける前に、誰かに相談するとよいでしょう。
②次の出勤で、自分から上司に報告する
インシデントのあとの出勤では、主任や師長、医療安全の担当者に、自分から報告しましょう。
何が起きたのか、なぜ起きたのか、次からどうするのかを、自分の言葉で伝えることが大切です。
インシデントレポートを出していても、顔を合わせて自分から話すことで、正直に向き合っていることが伝わります。
私もインシデントのあとの出勤では、主任や師長、医療安全の担当者に「すみませんでした」と声をかけて、自分から報告してから仕事に入りました。
ほかの先輩とはいつもどおりに接して、仕事はいつもより慎重に進めるように意識していました。
③再発防止策を1つだけ決める
気持ちが少し落ち着いたら、同じことを起こさないための対策を1つだけ決めましょう。
私が実際に決めた対策と、若手に多い与薬のインシデントで決めるとよい対策を、次の表にまとめました。
| インシデントの例 | 1つだけ決める対策 |
|---|---|
| 術後の患者さんの足に起きた異変に気づけなかった(私の体験) | 観察は「頭から足先まで」全身を見る |
| 人工呼吸器の配管をつなぎ忘れた(私の体験) | ・少しでも不安があれば先輩に確認をお願いする ・マニュアルの確認 |
| 点滴の流量・速度の設定を間違えた | ボトルを替えたときや速度を変えたときは、必ずダブルチェックをする |
| 別の患者さんの薬を準備した・渡しかけた | ・6Rを確認する ・確認タイミングをマニュアルで見直す |
上記のように、対策はどれも「次の勤務で意識できる1つ」に絞るのがおすすめです。
いくつも決めても、勤務中に全部は意識しきれません。
ダブルチェックや6Rを確認するタイミングは病院や部署によって違うので、自分の職場のマニュアルで確かめておきましょう。
④休みの日は人と会う・没頭できることをする
休みの日は家にこもるより、人と会ったり、没頭できることに時間を使ったりするのがおすすめです。
私は、気の合う人と会って話したり、お酒を飲んだり、スポーツに打ち込んだりして気持ちを切り替えていました。
落ち込んでいるときに家に1人でいても、あまりいいことはないというのが私の実感です。
⑤つらさが続くときは専門家に相談する
眠れない、食欲がない、出勤前に涙が出るといった状態が続くときは、1人で抱えずに専門家に相談してください。
相談先は主に次の3つで、どこに相談すればいいか迷ったら、心療内科や精神科のクリニックがいちばん行動に移しやすいと私は考えています。
| 相談先 | こんなときに | 始め方 |
|---|---|---|
| 心療内科・精神科のクリニック | 眠れない・食欲がないなど、体や気持ちの不調が続いている | 近くのクリニックを探して、電話やWebで予約する |
| 厚生労働省「こころの耳」の相談窓口 | 受診するほどではないが、誰かに話を聞いてほしい | サイトから電話・SNS(LINE)・メールの窓口を選ぶ |
| 職場の産業医 | 職場の環境や働き方も含めて相談したい | 職場の窓口や上司に面談を申し込む |
クリニックを受診するときは、インシデントのことと、眠れない・食欲がないといった今の状態を、そのまま伝えれば大丈夫です。
職場の産業医に相談する場合は、自分から面談を申し込むのが基本ですが、ハードルが高く感じるでしょう。
ただ、産業医には守秘義務があり、相談した内容が本人の同意なく上司に伝わることは、原則ありません。
相談窓口は、厚生労働省の「こころの耳」から探せます。
インシデントで落ち込む看護師によくある質問

インシデントのあとに多い「クビになる?」「責任を問われる?」「辞めたほうがいい?」「向いていない?」という4つの不安に、医療安全の担当者の立場から答えます。
どれも、落ち込んでいるときほど大きく考えてしまいがちな不安です。
インシデントを起こしたらクビになる?
インシデントを起こしただけでクビになることは、まずないでしょう。
私が医療安全の担当者として見てきた範囲で、インシデントが原因でクビになった人はいません。
ただし、報告しない、インシデントレポートを出さないなどの対応は信頼をなくします。
インシデントを起こしたら、看護師として責任を問われる?賠償することになる?
患者さんに影響がなかったインシデントで、看護師個人が法的な責任を問われることは、基本的にありません。
法的な責任が問題になるのは、患者さんに被害が出た医療事故の場合で、看護師は次の3つの責任を問われる可能性があります。
参考:看護roo!「看護師は1つの医療事故で3つの法的責任を負う」)
| 責任の種類 | 内容 |
|---|---|
| 民事責任 | 患者さんに与えた損害を、お金で賠償する責任 |
| 刑事責任 | 業務上過失致死傷罪などに問われる責任 |
| 行政責任 | 国から免許の処分(戒告・業務停止・免許取消)を受ける責任 |
上記のうち賠償は、多くの場合まず病院が負いますが、看護師個人に請求される可能性もゼロではありません。
心配な場合は、看護職向けの賠償責任保険に入っておくと安心です。日本看護協会の会員は、協会の「看護職賠償責任保険制度」に加入できます。
免許の処分については、厚生労働省が考え方を公表しています。
参考:厚生労働省「保健師助産師看護師に対する行政処分の考え方」
インシデントで辞めたいと思ったら、辞めたほうがいい?
落ち込んでいる間は、辞めるかどうかの大きな決断はしないほうがいいです。
私も6年目のときに「辞めたい」と何度も思いましたが、実際に辞めるための行動は起こさず、時間が経つにつれて気持ちは落ち着いていきました。
まずは立ち直るためにやること5つで気持ちを落ち着けてから、それでも辞めたいかを考えても遅くはないでしょう。
インシデントが続く私は、看護師に向いていない?
インシデントが続くのは、向き不向きではなく、仕事の進め方で変えられることが多くあります。
報告を受けていて多いと感じるのは、焦っているときに今やらなくていいことまで抱えて、仕事が立て込んでしまうパターンです。
これは経験を重ねながら身につけていける力で、例えば次のようなことから始められます。
- 「これはあとでも明日でもいいか」を一度考える
- 立て込みそうなときは、先に誰かに頼む、助けを呼ぶ
- 焦ってきたと感じたら、マニュアルどおりにできているか一度立ち止まる
若い看護師がマニュアルを熟知していないことは多く、理由も添えて教えるのは先輩や医療安全の担当者の役目だと私は考えています。
インシデントで立ち直れないときは1人で抱えず、対策を1つ決めよう
インシデントで立ち直れなくなるのは、弱さではなく、看護師歴10年以上の私でも起こることです。
報告を受ける医療安全の担当者は、あなたを責めるより「次にどう防ぐか」を考えています。
すでに報告を済ませたなら、いちばん大事なことはもうできています。
立ち直るためには、信頼できる人に話し、次の出勤で自分から上司に報告し、再発防止策を1つだけ決めて、休みの日は人と会ったり没頭できることをしたりしましょう。
つらさが続くときは、1人で抱えずに専門家に相談してください。
6年目の自分に声をかけるなら、私は「なんとかなるから大丈夫だよ」と言います。
明日の勤務では、決めた対策を1つだけ意識してみてください。

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