「BLSプロバイダーを持っていて、そろそろ教える側に回ってみたい。」
「何から始めればいいのかは公式サイトを読んでもわからない」
という方に、BLSインストラクターになる道のりを解説します。
BLSインストラクターになるには、プロバイダー資格の取得、タスクとしての参加と推薦、2つのコースの修了、モニター評価という段階を踏みます。
私はプロバイダー資格を看護師3年目で取り、途中で4年ほど活動から離れましたが、現在もインストラクターとして活動しています。
この記事では、最初の一歩の踏み出し方、つまずく場所、実際にかかった費用を、自分の体験そのままでまとめます。
AHAのBLSインストラクターとは? 教えられるコースと立ち位置

AHAのBLSインストラクターは、HeartCode BLS Part2(スキルセッション)とハートセイバーコースでインストラクションできる資格です。ハートセイバーコースとは、医療者以外の一般の方が受ける心肺蘇生・応急手当のコースを指します。
ファミリー&フレンズCPRのように、インストラクター資格がなくても開催できるAHAのプログラムもあります。
なお、BLSプロバイダーコースは2026年3月末で終了しました。現在はオンライン学習のPart1と実技のPart2を組み合わせたHeartCode BLSに一本化されています(資格名は「BLSプロバイダー」のままです)。
プロバイダー資格との違いを整理しました。
| BLSプロバイダー | BLSインストラクター | |
|---|---|---|
| できること | 質の高いCPRとAEDを実施できる | HeartCode BLS Part2・ハートセイバーコースでインストラクションできる |
| 受講条件 | 推薦は不要(JCS-ITCでは医療従事者と医療系学生が対象) | コースディレクターまたはファカルティからの推薦が必要 |
| 有効期限 | 2年 | 2年 |
| 費用の目安 | 1〜2万円程度(ITC・会員資格による) | コース受講料14,850円+テキスト代16,610円 |
記事に出てくる用語を先に整理しておきます。
- ITC(国際トレーニングセンター):AHAのコースを日本で開催する組織。日本に10か所ほどあり、インストラクターはどこかのITCに所属して活動します。
- コースディレクター:コース全体の責任者。誰をインストラクターにするかを判断する立場
- ファカルティ:インストラクターを指導・評価する上位の役割
- タスク:コースの運営を手伝うスタッフ。準備や受講生の誘導を担当し、インストラクションはしません
- モニター評価:受講生にインストラクションしている場面を評価者に見てもらう実技試験。認定の最終関門です
- インストラクション:AHAはインストラクターの仕事を「教える」だけとは定義していません。準備、教える、試験と補習、締めくくり、資格の維持という5段階をInstruction Cycleと呼び、その全体を担うのがインストラクターです。この記事の「インストラクションする」はこの意味で使います
この記事の金額や手順はJCS-ITCの公式ページに基づいています。ITCによって細部は変わります。
参考:JCS-ITC HeartCode BLSコース/JCS-ITC BLSインストラクターコース/AHA BLS Instructor Essentials 受講生ワークブック(PDF・英語)/ファミリー&フレンズCPR(BLS横浜)
BLSインストラクターになるまでの5ステップ【私の実体験】

受講するコースはコアとインストラクターの2日分ですが、その前後にタスクとしての参加実績とモニター評価が必要なため、期間は1年前後を見ておくとよいでしょう。
STEP1:BLSプロバイダー資格を取る
まずは、BLSプロバイダー資格の取得が必要なため、HeartCode BLSを受講しましょう。
HeartCode BLSはオンライン筆記試験と実技の2部に分かれています。
STEP2:タスクとしてコースに通い、推薦をもらう
コースに繰り返し「タスク」として参加し、コースディレクターまたはファカルティから推薦をもらいます。
タスクの次のステップであるインストラクターコースは、単に申し込めば受けられるコースではないからです。
出典:JCS-ITC BLSインストラクターコース)。
STEP1でどれだけ顔を出したかが、そのまま条件になります。
私がタスクとして活動を始めたのは4年目ごろで、インストラクターコースを受けるまでに10回ほど入りました。マネキンやAEDトレーナーを準備し、受講生を誘導し、機材を片付けます。インストラクションはしませんが、コースの流れが体に入ります。
タスクに入るには、どこに声をかければいいか
私が知る限り、入り口は2つあります。
- 受講したコースで、その場のインストラクターに直接伝える。HeartCode BLSのPart2を受けた日が、いちばん自然にいえるタイミングです
- 院内に教育センターやトレーニングサイトがあるなら、そこに希望を出す。私の病院ではこちらが主流で、インストラクターが希望者に声をかけ、そこからコースディレクターに話が上がるという流れが多いです
私は友人に誘われましたが、これは経路のひとつにすぎません。要件に経験年数や配属先の指定はなく、医療系の国家資格と推薦があれば対象になります。
余談ですが、私は転居で所属ITCから物理的に遠くなり、通うのが難しくなって約4年間、活動から離れました。
再開できたのは、元のITCがある地域に戻ったとき、当時お世話になっていたインストラクターから「またやらないか」と声をかけてもらえたためです。
STEP3:コアインストラクターコースを受ける(6,600円・1日)
コアインストラクターコースは、蘇生の手技ではなく成人教育を学ぶコースであり、「プロフェッショナルの基礎」「計画と準備」「指導の方法と方略」「評価」などを学べます。
コースは、ビデオを見たあとに少人数で意見を交換しながら進みます。
筆記試験はなく、有効期限もないため、再受講の必要はありません。受講料は6,600円(税込)です。
別のITCではこのステップがない場合があるため、自分が所属するITCの案内を確認しましょう。
私の場合、ここで学んだ成人教育の知識がいまの業務に役立っています。
STEP4:BLSインストラクターコースを受ける(8,250円・5〜6時間)

BLSインストラクターコースは、実技をどう教えるかの技法を学ぶ研修で、座学に加えて、ロールプレイ形式で実際のインストラクションを学びます。
研修参加者がインストラクター役と受講者役を交代してロールプレイをします。
| 受講料 | 8,250円(税込) |
| 所要時間 | 5〜6時間程度(1日) |
| 持ち物 | BLSプロバイダーマニュアル、BLSインストラクターマニュアル、ポケットマスク、筆記用具 |
| 合格基準 | すべての座学・実習に積極的に参加し、筆記試験で84%以上 |
| 事前学習 | 担当パートが事前に配布されるため、インストラクションの方法をシミュレーションしておく |
私にとっての山場は筆記試験ではなく、インストラクター役として他の参加者にインストラクションする場面でした。タスクとして10回入っていたため流れは知っていましたが、知っていることとインストラクションできることは違いました。
たとえば、次のような状態です。
- 言葉のチョイスが決まらず、うまく説明できない
- どうしても自分の手を出してやってみせようとしてしまう
- 答えを言ってしまい、気づきを促す声かけがまったくできない
- コースの先を読んで、自分でマネキンを動かしてしまう
手技はできるのに、インストラクションができない。この落差が想像以上でした。
STEP5:モニター評価に合格して認定される
インストラクターコースを修了後、実際に受講生へインストラクションしている場面をコースディレクターまたはファカルティに見てもらい、スキルが十分と認められて初めて認定されます。
受け方の概要は以下です。
- 申し込み:コースディレクターと話し合ってタイミングを決めます
- 期限:インストラクターコース修了から6か月以内にモニター評価の完了が求められます(出典:日本医療教授システム学会 AHA国際トレーニングセンター)
- 再挑戦:私は翌回のコースで、そのまま次のモニター評価を受けました。追加費用はかかりません
私はモニター評価を3回受けました。主に指摘されたのは次の5点です。
| 指摘されたこと | どういうことか |
|---|---|
| コースの事前準備が足りない | 自分の担当パートの流れと時間配分を詰めきれていなかった |
| 受講生の回し方 | 誰にいつ交代させるか、全員に同じだけ練習させる差配ができていない |
| 自信を持ってやる | 迷いが声と態度に出て、受講生を不安にさせる |
| もっとテキストを見せて説明する | 口頭だけで済ませず、根拠のページを開いて示す |
| 喋りすぎない | 説明で埋めず、受講生が自分で気づく時間を残す |
参考:JCS-ITC インストラクターコース/JCS-ITC コアインストラクターコース/JCS-ITC BLSインストラクターコース/日本医療教授システム学会 AHA国際トレーニングセンター
合格を分けたのは「指示」を「問いかけ」に変えたこと
モニター評価で苦労したのは、正解を告げるのではなく、受講生を動画と自分の手元に引き戻すような声のかけ方です。
AHAのBLSコースは、受講生が動画を見て真似をしながら学ぶスタイルです。正解はこちらではなく動画の中にあります。
そのためインストラクターは、受講生に対して動画と実際の手技を比較して考えさせるような声掛けをします。
| 場面 | 落ちていた頃の言い方 | 今の言い方 |
|---|---|---|
| 胸骨圧迫の手の位置がずれている | 「手はここに置いてください」 | 「動画と比べて、手の位置はどうですか?」 |
| 圧迫のテンポが速い | 「速いから、もっとゆっくり押しましょう」 | 「動画と比べて、テンポはどうですか?」 |
言い換えただけに見えますが、受講生の動きが変わります。指示されて直した動きはすぐに忘れてしまう一方、自分で気づいて修正した動きは残ることが多いです。
声かけに対して、それが「なぜなのか?」を問えるとさらに受講生に気づきを促せます。
実際にかかった費用【自費か職場負担かで大きく変わる】

コース受講料は2つで14,850円、テキスト代を含めると3万円を超え、加えて毎回の交通費が乗ります。
| 項目 | 金額(JCS-ITCの場合) |
|---|---|
| コアインストラクターコース | 6,600円(テキストは受講料に含む) |
| BLSインストラクターコース | 8,250円 |
| BLSインストラクターマニュアル2020 日本語版 | 16,610円 |
| BLSプロバイダーマニュアル | プロバイダー受講時に購入済みのものを使用 |
| 合計 | 31,460円 |
| 交通費 | 会場と回数しだい(タスク参加のたびに発生) |
プロバイダー資格の取得費用は含みません。金額はJCS-ITC公式ページに記載された時点の額です。最新の料金は公式で確認してください。
負担のしかたは、所属によってはっきり変わりました。
- 個人で参加していたころ:交通費もテキスト代もすべて自己負担
- 病院の教育センターに所属してから:テキスト代を出してもらえるようになり、院内で開催するコースへの参加は勤務扱い
- 今も自己負担なもの:他院のコースに出るときは自分の休みを使い、交通費も自費
目指すなら、自分の病院に教育センターや院内トレーニングサイトがあるかを先に確認しておくのをおすすめします。
参考:JCS-ITC コアインストラクターコース/JCS-ITC BLSインストラクターコース
看護師がBLSインストラクターを取って良かったこと4つ
- 後輩指導が「教える」から「気づかせる」に変わった
- 病棟の勉強会で場を回せるようになった
- 心停止の「病態」まで理解できるようになった
1:後輩指導が「教える」から「気づかせる」に変わった
答えを渡すのではなく、本人が気づけるような関わりに変わりました。先ほどの「動画と比べてどうですか?」の問いかけは、そのまま病棟でも使えます。手順書やマニュアルを一緒に開いて、「今のやり方と比べてどうですか」と聞く形です。
2:病棟の勉強会で場を回せるようになった
BLSでのチームダイナミクス(チームでの役割分担と声の掛け合い)で、誰に何を振るか、意見を積極的に言わないスタッフにどう引き出すかを学びました。
3:心停止の「病態」まで理解できるようになった
インストラクションする側になると、手技を覚えるだけではなく、体の中で何が起きているのかを理解する必要があるため、心停止の病態をひたすら学びました。
例えば呼吸原性心停止では換気が重要になると理解できました。現場で何を優先するかの判断も変わっています。
資格の更新は2年ごと|2年間に4回の指導が必要
BLSインストラクターの資格は2年で期限が切れるため、2年間に4回のコース参加が必要です。
CS-ITCは「インストラクターカードの有効期限も2年間です。インストラクターはこの2年間に計4回コースで教える必要があります」と明記しています(出典:JCS-ITC よくある質問)。
AHAの更新チェックリストでも、過去2年間に4回以上のBLSコース指導とモニタリングの合格が条件とされています(出典:AHAの更新チェックリスト)。
実感としては、回数を数えるよりコースに参加し続けるほうが結局は近道です。声がかかったコースに入っていれば、回数もモニタリングも自然と満たせます。逆に、一度離れると私のように何年も空きます。
参考:JCS-ITC よくある質問/AHA Instructor/Training Faculty Renewal Checklist(PDF)
ICLSインストラクターとの違い
BLSは手技の質、ICLSは薬剤とアルゴリズムが軸になります。私は両方のインストラクターをしていて、感じた違いは次のとおりです。
| AHA BLSインストラクター | ICLSインストラクター | |
|---|---|---|
| 扱う範囲 | 一次救命処置(CPR・AED・窒息) | 薬剤を含む二次救命処置 |
| 教える側に必要だと感じたもの | 手技の質と、気づきを促す関わり | アルゴリズムの暗記と理解、原因検索の視点 |
| 受講生への対応 | 動画に沿って進むため、進め方が標準化されている | 受講生の背景や経験に合わせた対応がより必要 |
順番としては、BLSインストラクターの経験があるとICLSで有利だと感じます。BLSパートと基本的なインストラクションはすでにできる状態から始められるため、薬剤とアルゴリズムの習得に集中できました。
これから目指す人へ|道中はきつい、でも見返りは大きい
正直に言うと、道中は大変です。
コースの進行はかなり速く、そのなかで受講生の気づきを促すのはとても難しい作業です。「自分はインストラクターに向いていないんじゃないか」と思う時期がきます。私はモニター評価に2回落ちて、まさにそう思いました。
認定されたあとも、慣れるまでには時間がかかります。それでも続けている理由は、BLS以外の場面でそのまま使える学びが多いからです。ポジティブフィードバックの伝え方、後輩指導、勉強会の進行。どれも病棟に持ち帰れます。
急変対応そのものの学び直し(NCLS=看護師向けの院内急変対応コース)について詳しくはこちら↓
NCLSを受講した体験記事
よくある質問
看護師以外でもなれますか?
JCS-ITCの場合、BLSインストラクターコースの対象は、医師・看護師・救急救命士など日本国内の医療系国家資格を持つ人です。ITCによって対象は異なるため、受けたいITCの案内を確認してください。
経験年数の条件はありますか?
年数の規定はありません。条件は医療系国家資格と、コースへの参加実績にもとづく推薦です。
インストラクター活動に報酬は出ますか?
所属によります。私の場合、院内のコースに入るときは勤務として扱われるため、報酬はありません。一方で、他院のコースに参加するときは自分の休みを使うため、報酬が発生します。
最短でどれくらいで取れますか?
1年前後と見ておきましょう。受講するコースはコアとインストラクターの2日分ですが、その前にタスクとしての参加実績と推薦が必要で、修了後もモニター評価の機会を待つことになります。
BLSインストラクターを目指すなら、タスクとしての参加と推薦の積み重ねを
BLSインストラクターへの道のりは、資格試験に申し込んで終わるものではありません。プロバイダー資格を取り、タスクとしてコースに通い、推薦を受けたうえで2つのコースを修了し、最後にモニター評価を通ります。
つまずきやすいのは、蘇生の知識や手技ではなく、インストラクションのしかたです。私が指摘されたのも、事前準備の甘さや受講生への声のかけ方ばかりでした。
最初の一歩は、受講したコースでその場のインストラクターに伝えるか、院内の教育センターに希望を出すか。どちらも特別な準備は要りません。手技ができることと、インストラクションできることは別物です。その差を埋める過程そのものが、この資格の中身だと思っています。

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